先日、対AI学習禁止用のWordPressプラグイン「Smart Access Control」のメジャーアップデート(v4.x)を行いました。
正直に言えば、AIに対して「アクセスブロック(門を閉じること)」だけで対抗するのは、もう時代遅れで危険なフェーズに入っていると感じています。
なぜ、2ヶ月もの歳月をかけて「追加機能」を実装したのか。その開発秘話と、私が描く「防衛の哲学」を語らせてください。
前に書いた内容と被ることころもあるかもしれないですが、改めて深堀りして解説していきます。
プラグインのインストール
プラグインの詳細は下記のページを見てください。
AIの無断学習という「身勝手な解釈」
AIが登場した当初から、画像や文章を生み出すクリエイターの間では「無断学習」に対する悲痛な叫びと、厳しい批判が飛び交っています。
最近では「X(旧Twitter)」を筆頭に、私たちが長年居場所として愛用してきたサービスまでもが、ある日突然「今日からお前のデータはAIの餌だ」と規約を書き換える。そんな身勝手な例が後を絶ちません。
Webサイトはどうでしょうか?
本来、Webサイトを巡回する「クローラー」は、検索エンジンに情報をインデックスさせ、世界中の人に見てもらうための橋渡し役でした。しかし今、その仕組みは「同意なきコンテンツ強奪」の道具へと悪用されています。
「robots.txtやnoindexで拒否すればいい」という意見もあります。 しかし、それを律儀に守るのは、Googleのような巨大資本を持つ一部の企業だけでしょう。もともとこの機能は「お願いベース」で作られたルールであって強制力はないのです。
AI企業にとって、検索結果にすべてのサイトを律儀に載せる義理はありません。
彼らにとって重要なのは、学習を重ねて回答精度を上げることだけ。そのためなら、たとえ「除外設定」がされていても、彼らにとっては宝の山に見えているはずです。
「公開されているページなのだから、誰でも閲覧・保存ができる。ならばAIがどう学習しようが自由だ」……。そんな極論とも言える解釈が、今やスタンダードになりつつあります。
かつてのWebに存在した「善意のバランス」や「暗黙のマナー」は、AI企業の都合のよい解釈にされていると思います。
「公開されている=何をしてもいい」という暴論によって、インターネットの秩序は今、徐々に崩壊しています。
発信者側に主導権が無くなった世界線
かつてのWebでは、情報の主導権は常に「発信者」の側にありました。
たとえばGoogleの検索エンジンであれば、自分のサイトのどのページが登録(インデックス)されたのかを「Google Search Console」などのツールで正確に確認することができます。
どの情報が検索エンジンに登録され、除外されたか、発信者側で設定出来ます。
しかし、AIクローラーが支配する今の世界線はどうでしょうか。
AIは「いつ、どこから、何を」持ち去ったのかを教えてはくれません。
気づかないうちに訪問し、コンテンツを丸ごと飲み込み、自らの知能(モデル)の一部として同化させてしまう。
一度飲み込まれた情報は、もはや発信者の手を離れ、コントロール不可能な領域へと消えていきます。
「自分の情報が、いつ、どこで、誰の役に立っているのか(あるいは悪用されているのか)」
その最低限の透明性すら失われた今、Webは発信者にとって極めて不誠実な場所へと変わり果ててしまいました。
「消せない」という負の遺産
さらに深刻なのは、公開した情報を「非公開」にした際の問題です。
もし、過去に公開した記事に誤りがあったり、何らかの理由で削除したいと考えたりした場合、AIはその意思を汲み取って学習データから除外してくれるでしょうか?
答えは、限りなく「NO」に近いでしょう。
一度モデルに取り込まれた学習データは、巨大な知能の断片として記録されていることでしょう。
後から「その一行だけを忘れてくれ」と頼んでも、現在の技術ではほぼ不可能です。
間違った情報をAIが真実かのように生成し続けるリスク。あるいは、不本意な形で拡散された情報が、ネットの海から永遠に消去できない「デジタル・タトゥー」としてAIの中に刻まれ続ける恐怖。
発信者が自分の言葉に責任を持とうとしても、AIがその「修正権」や「忘却権」を奪い去ってしまう。このままでは、Webに何かを書き残すこと自体が、取り返しのつかないリスクになりかねません。
アクセスブロックで判明した「偽物の情報」
今回の開発過程で、恐ろしい事実を目の当たりにしました。
アクセスブロックを有効にし、AIクローラーが物理的に中身を読み取れないように設定したサイトに対して、AIによる「ページの翻訳」を試みたときのことです。
クローラーはブロックされているのですから、本来なら「アクセスできません」というエラーが返るか、空っぽの結果になるはずです。しかし、画面に表示されたのは驚くべき内容でした。
なんとAIは、あたかもそのページに実在するかのような「架空の回答」を、堂々と生成してしまったのです。
実際にGeminiに要約して貰った画像です。

AIがURLから勝手に推測して「この記事には〇〇と書かれています」と堂々と出力してしまいました。
利用者はわざわざ元のサイトにアクセスして、ブロックされているかどうかを確認したりはしません。「AIがそう言っているのだから、そうなのだろう」と信じてしまうのです。
仮に「アクセスブロックしているよ」とAIに相談しても本当にブロックされているか疑心暗鬼になります。

つまり、発信者がどれだけ「アクセスブロック」で門を閉ざしても、AIが「中にはこんなことが書いてありましたよ」と偽の情報を生成してしまっても、それが世の中の『真実』として流通してしまう。
これが日常的に知らない間で生成されていると思うとゾッとします。
これこそが、私たちが直面している「主導権の喪失」の正体です。 発信者がブロックしても、AIは勝手に「偽物の情報」を作り出し、それを真実として世界に垂れ流す。中身を見せないだけでは、もはや「正しく伝わらない」どころか、「悪質な嘘」に上書きされてしまうリスクがあるのです。
「正しく伝わらない」とうことは本来の発信者の糸が伝わらないだけではなく、炎上のリスクさえ招くことも考えないといけません。
どう解決するのが一番いいのか?
無断学習だけではなく、「ハルシネーション(嘘)」によって勝手な情報を生成されてしまうリスク。これはもはや、発信者側の管理能力や責任が問われる死活問題です。
今までの「お願いベース」のやり方が通用しないのであれば、暗黙の了解をぶち壊してでも、情報の主導権を自分たちの手に取り戻さなければなりません。
その問題を解決するために、僕が「Smart Access Control」の核心に据えたのが、「クローキング(Cloaking)」と呼ばれる技術を利用することです。
「防御的クローキング」という新常識
クローキングとは、アクセスしてきた相手が「人間(ブラウザ)」か「ロボット(AIクローラー)」かをサーバー側で瞬時に判別し、それぞれに全く異なるコンテンツを返す手法です。
かつてこの技術は、検索エンジンを騙して検索順位を不正に上げるための「悪しき手法」として利用されていた過去があります。
現在も人間が見るページとロボットが見るページが異なることは、Webの透明性を損なうという理由で、Googleからもペナルティの対象とされる「タブー」になっています。
しかし、AIが勝手に情報を盗み、さらには嘘(ハルシネーション)を垂れ流す今の異常なWeb環境においては、これこそが最強の「防御兵器」になります。
今回の「Smart Access Control」のアップデートで実装した機能は、まさにこの考え方を具現化したものです。
- 人間には「真実」を: 普通にサイトを訪れた読者には、今まで通り価値あるコンテンツを100%の形で提供します。
- AIには「虚無」を: クローラーが侵入してきた瞬間、サーバー側でそれを検知し、中身を「空っぽ」にするか、あるいは「AIに学習させやすい(=毒入りの)文章」へと動的に書き換えて差し出します。
- 対AIの画像扱い: 無断学習を拒絶したいなら画像そのものを非表示にし、もし発信者側の意図を伝えたいのであれば、画像をテキスト(解説)に置き換えて渡します。
これにより、AIに勝手な解釈を許すのではなく、発信者の意図によってAIの学習内容をコントロールすることさえ可能になります。
「見せない」のではなく、相手によって「見せるものを変える」。 この主導権の奪還こそが、AIクローラーとの泥沼のイタチごっこを終わらせる、現時点での最適解だと私は確信しています。
本当に「需要」はあるのか?Webに潜む「防衛格差」
ここまで読んで、「そこまでして守る必要があるのか?」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、現在のWeb環境において、情報の制御権を失うことは、「資産を盗んでください」と言っている様なものです。その需要は、いまやあらゆる層で爆発的に高まっています。
1. 個人クリエイター:魂の搾取を防ぐ
イラストレーターやライターにとって、作品は「分身」であり「資産」です。
- 無断学習への嫌悪: 自分の絵や文章が、承諾なくAIの知能として組み込まれることへの抵抗感。
- 文脈の破壊: AIが断片的に情報を吸い上げ、本来の意図とは異なる「歪んだ要約」を生成することへの恐怖。 自分の声を正しく届けるために「守る」という選択肢は、表現者にとって今や生存本能に近い需要となっています。
2. コミュニティ・インフルエンサー:信頼という「庭」を守る
SNSを主戦場にし、ファンとの絆を大切にする人々にとって、情報の「純度」は何より重要です。
- 限定情報の保護: メンバーシップなどの需要が爆発する中、「購読者にだけ、正確な情報を届けたい」というニーズ。
- 愛着のある運用の防衛: 自分が愛を持って育てたサービスや発言が、AIによって無機質なデータとして消費され、文脈を無視して切り取られることを防ぎます。
3. 大手EC・通販サイト:アルゴリズム戦争の最前線
大手企業の通販サイトにおいて、クローラー対策は「1円単位の利益」を守るための死活問題です。
- 価格スクレイピングの阻止: 競合AIにリアルタイムで価格を監視され、自動で安値をぶつけられる不毛な競争からの脱却。
- ハルシネーションによる機会損失: アクセス制限をした際、AIが勝手に「在庫なし」「販売終了」といった嘘を生成・拡散するリスクの回避。
4. 中小企業・Web担当者:高額な防壁への代替案
実は、Amazonのような超大手は巨額の投資をして高度なアンチボットシステムを導入していますが、そのコストは一般的ではありません。
- 「防衛格差」の解消: 高価なシステムを買えない層が、いかにして自分のサイトを物理的に守るか。
主導権を握ることは「Webの標準装備」になる
世界中のメディアがAI企業を提訴し、クローラーブロックを表明している今の流れは、決して一時的なブームではありません。
「見せる相手を選び、情報の価値を自分でコントロールする」。 この主導権の奪還に対する需要は、Webに何かを書き、何かを売るすべての人にとって、これからの時代の「標準装備」になると私は確信しています。
自分の資産は、自分の手で守り抜く
2ヶ月に及ぶ開発期間中、Webの秩序が崩壊しているのが肌で感じ、一人でも多くの悩みが解決できればとの思いで作成していました。常に「10年後のWebはどうなっているか」も同時に考えていました。
かつてのWebは、善意で成り立つ「共有の場」でした。しかし、今のWebは、知らないうちに自分の資産を吸い取られ、AIによって発信者側が知らない情報も共有されている恐ろしい世の中になっています。
「Smart Access Control」は、ただAIを拒絶するためのツールではありません。本来発信者が生み出した言葉、積み上げてきた資産、そしてその「正しい文脈」を、自分たちの手に取り戻すための手段です。
近々AI関連イベントで発表しようと考えています。
「AIとクリエイターの新しい関係性、これからのWebのあり方」を提示したいと考えています。何もせずにオープンにして公開するだけではなく、テクノロジーにはテクノロジーで発信者側に主導権を取り戻すように対抗する。
これからのWeb運営のスタンダードになると信じています。
私はこの10年、このドメインで活動を続けてきました。 これからも、自分が生み出す「魂(コンテンツ)」を安易に売るつもりはありません。
自分の資産は、自分の手で守り抜く。 そのための「盾」であり「牙」であるこのプラグインが、同じ志を持つ皆さんの助けになれば幸いです。


